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神戸地方裁判所 平成9年(ワ)900号 判決 1998年1月29日

原告

大前款嗣

被告

鈴木祐一

主文

一  被告は、原告に対し、金一八三万三三一〇円及びうち金一六八万三三一〇円に対する平成八年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金七一九万四八一〇円及びうち金六二〇万四八一〇円に対する平成八年三月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負うとともに物損を被った原告が、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、訴え提起時の弁護士費用を除く内金に対する本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である(後に、弁護士費用を除く内金が増額され、弁護士費用が減額された。)。

二  争いのない事実

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成八年三月三〇日午後三時五五分ころ

(二) 発生場所

神戸市中央区神戸港地方口一里山一番山麓バイパス東行き〇・八キロポスト(市道山麓バイパス線)付近路上

(三) 争いのない範囲の事故態様

原告は、普通乗用自動車(神戸三三ほ二一〇四。以下「原告車両」という。)を運転し、折からの交通渋滞のため、右発生場所付近に停車していた。また、原告車両の後方には、訴外城澤昌文運転の普通乗用自動車(なにわ五七て五七六二。以下「城澤車両」という。)が停車していた。

他方、被告は、普通乗用自動車(神戸三三や二六六五。以下「被告車両」という。)を運転していたところ、城澤車両の後方からこれに追突し、その衝撃で城澤車両が押し出され、原告車両に追突した。

2  責任原因

被告は、被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により原告に生じた損害(人損)を賠償する責任がある。

また、被告は、本件事故に関し、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  争点

本件の主要な争点は、原告に生じた損害額である。

四  本件の口頭弁論の終結の日は平成九年一二月一六日である。

第三争点に対する判断

右争点に関し、原告は、別表の請求欄記載のとおり主張する。これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、原告の損害として認める。

一  損害

1  文書料

甲第二号証の三によると、文書料金三〇〇〇円が認められる。

2  通院交通費

甲第三号証の一、二、原告本人尋問の結果によると、通院等に関する交通費としてタクシー代金一八一〇円を要したことが認められる。

3  慰謝料

甲第二号証の一、二、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故直後に吉田アーデント病院を訪れ、同病院の医師により、頸部捻挫との診断を受けたこと、その後、平成八年四月三日から同年八月二八日まで、長谷川整形外科に通院したこと(同病院の実通院日数は六三日間)、同病院の医師による診断傷病名は外傷性頸椎症であったことが認められる。

そして、前記争いのない本件事故の態様に、右認定の原告の傷害の部位、程度、通院期間、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告に生じた精神的損害を慰謝するには、金七〇万円をもってするのが相当である。

4  修理費用

本件事故により原告車両に生じた損傷を修理するための直接の費用が金九五万円であることは当事者間に争いがなく、乙第一号証によると、これと別に消費税相当額金二万八五〇〇円を要したことが認められる。

したがって、右合計金九七万八五〇〇円が修理費用というべきである。

5  評価損

交通事故で車両が損傷を受けた場合、右損傷を修理してもなお価格の減少がある場合には評価損が認められうるところ、これは、単に当該車両に事故歴があるというだけでは足らず、修理技術上の限界から、当該車両の性能、外観等が、事故前よりも現実に低下したこと、または、経年的に低下する蓋然性の高いことが立証されてはじめて、これを認めるのが相当であると解される。

ところで、本件においては、甲第四号証の三、乙第一号証によると、原告車両は、初度登録が平成元年八月のポルシェであること、原告の車両の損傷に対しては、多くが部品の取替、脱着で対処され、部品の修理がされたものはごくわずかであることが認められる。そして、これらの事実によると、原告車両の修理の後に、なお、評価損が生じたとまでは認められない。

なお、原告は、本件事故前の原告車両の価格は金六〇〇万円であり、修理後の原告車両の価格は金三〇〇万円であったから、この差額が評価損である旨主張し、右各価格については、甲第四号証の一、二、証人土居英夫の証言、原告本人尋問の中に、これに沿う部分がある。しかし、証人土居英夫の証言、原告本人尋問の結果によると、甲第四号証の一は、本件事故の後に損害賠償のために作成された書面であることが認められる上に、甲第四号証の二によると、原告車両には、本件事故とは関係のないキズ、トビ石、塗装ムラがあったことが認められ、これらによると、本件事故前の原告車両の客観的な価格が金六〇〇万円であったとは到底認められない。

したがって、原告の主張する評価損を認めることはできない。

6  代車料

代車料は、事故により車両が使用不能になった場合に、代替車両を使用する必要があり、かつ、現実に使用したときに、相当性の範囲内で認められるべきものである。

そして、原告本人尋問の結果によると、原告車両の修理期間中、原告は、もう一台所有していた車両を使用していたことが認められる。

したがって、原告の主張する代車料を認めることはできない。

7  小計

1ないし6の合計は金一六八万三三一〇円である。

なお、被告は、既払金として、治療費金三二万三一五六円を被告側が負担した旨主張するが、本件は過失相殺が問題とならず、かつ、右に述べた損害の中には治療費を計上しなかったので、これを損害の填補としても計上しない。

二  弁護士費用

原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、被告が負担すべき弁護士費用を金一五万円とするのが相当である。

第四結論

よって、原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し(付帯請求については、原告の当初の請求にしたがい、弁護士費用を除く内金について認める。)、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法(平成八年法律第一〇九号による改正後のもの)六一条、六四条本文、附則三条本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項、附則三条本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

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